宝塚観劇の日々

宝塚と観劇の日々

宝塚を中心に観劇の感想などを備忘録的に。。。

ミュージカル 笑う男

フランスの文豪ヴィクトル・ユゴーの「笑う男(The Man Who Laughs)」を基に韓国で初演された「笑う男 the eternal love」を観に行ってきました。

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子どもの頃に顔に醜い笑顔に見える傷を付けられた青年グウィンプレンのが主役ってくらいの予備知識で、あらすじらしいあらすじはまったく知らない状態で観に行ったので、てっきり貧乏人で貧しいグウィンプレンたちが虐げられるツライお花しかと思っていたのですが、そうではありませんでした。

ちなみに、今作はヒロインであるデア以外はシングルキャストでしたが私が観て来たのはこちらのキャスト。
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 グウィンプレン:浦井健治
 デア:夢咲ねね
 ジョシアナ公爵:朝夏まなと
 デヴィット・ディリー・ムーア卿:宮原浩暢
 フェドロ:石川禅
 ウルシュス:山口祐一郎
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かるくネタバレふくむ感想です。

観劇前はユゴーの残した「金持ちの楽園は貧乏人の地獄によって造られる」という言葉から、勝手に暗くて残酷な物語を想像していたのですが、どちらかといえば、哀しくも美しい童話のようなお話でした。
実際、原作小説は「ロマンティック小説」と称されていますしね。

そういう意味では公演の予告編冒頭に出てくる「醜い傷を持った」グウィンプレンが辿った数奇な物語というのがぴったりなのかもしれません。
また、この美しい物語をより一層美しく彩っているのは、紛れもなくフランク・ワイルドホーン氏の楽曲ですね。
ワイルドホーンが楽曲のうち3曲を、本作を制作するきっかけとなったフランス映画を見たアジアからアメリカへの飛行機の中で書き上げたとか、凄すぎて想像できない。

1幕前半で見世物小屋の主人としてウルシュスが観客に向かって「醜いものを見たいのだろう?自分たちよりも不幸な人たちがいることを知るために」の様な事をいう場面は、まさに観客である自分が、ウルシュスが言ったように自分よりも不幸な人たちを見に来た人間のような気がしてなんだか恥ずかしい気持ちになりました。

ウルシュスが唄うのはまさに「残酷な世界」であるのにどこか温かくて、口ではどんなにきついことを言っていてもグウィンプレンを愛していることが分かるのです。
だからこそ、グウィンプレンが死んだと聞かされてた1幕最後「嘆きの館」と2幕でデアを慰める「脆い心」そして2幕の最後のグリーンボックスの場面は涙が勝手に流れてしまうのです。

ジョシアナ公爵のところから帰ってきたグウィンプレンが「僕にも幸せになる権利はある」とウルシュスに叫んだ後、ウルシュスが唄う「幸せになる権利/The Right To Be Happy」がツライ

私は個人的にはウルシュスを演じている山口祐一郎さんの歌唱方法とかちょっと苦手なのですが、このあたりのくだりはそれも超えて心が動かされてしまいました。

ウィンプレンに関しては「笑う男」を1幕と2幕でそれぞれ1回ずつ唄うのですが、全然違って聞こえるのです。
もちろん、唄っている場面(場所)が違うからというのはもちろんあるのでしょうが、2幕の「笑う男」はグウィンプレンの怒り嘆きが直に響いてくるというか。
あまり浦井健治さんの出演作品を見たことがないので、そう感じたのかもしれませんが普段聴かせてくれる高音領域よりもこの場面のような低音の方がだいぶ個人的には好みに感じました。

ところで、グウィンプレンはデアと愛し合っていると思うのですが(もちろん物語の最後はそのように締めくくられていたし)、でも、ジョシアナ公爵が「あなたは私に似ている」で迫る場面、グウィンプレンは醜い自分の顔から目を背けなかった公爵に心惹かれていたような気がするのですが。。。
まぁでも、2幕を見る限り、結局それはグウィンプレン自身が言っていたように公爵のただの気まぐれだったのでしょうが。

ジョシアナ公爵も腹違いの姉であるアン王女になにもかも決められる自身の環境の所為で、姉が好ましく思わないようなことをしたかっただけなのかもしれませんね。
だから、2幕でグウィンプレンが実は正式なクランチャーリー卿継承の者だとわかり自分の婚約者になったとたん、グウィンプレンに興味がなくなっているのだから。
でも、公爵の存在がグウィンプレンが数奇な運命を辿ったことにより変わった人物なんでしょう。
金持ちたちがつくるルールの中で彼らだけが幸せになる権利があるこの残酷な世界を変えようとしたグウィンプレンの言葉が唯一届いたのは、他でもないジョシアナ公爵でしたしね。
もしかしたら、彼女が変わることによって、グウィンプレンが願ったように世界を良い方向に作り変える事ができるきっかけになるのかもしれないし。

ジョシアナ公爵役の朝夏まなさんは元宝塚宙組男役トップスターとうだけあって、迫力は満点でお歌も特に問題ない力量でさすがという感じでした。個人的にちょっと残念だったのが、これは宝塚時代(後期)からもそうなのですが、お顔が真ん丸でちょっと。。もうちょっとシュッとしてたら良かったなぁと思いました。

ウィンプレンやウルシュス、そして見世物小屋の仲間たちの中で天使のような存在のデア。
盲目の彼女にはグウィンプレンの醜い傷は見えない。目が見えないからこそ外見に惑わされることなく純粋に人をみることが出来るのでしょう。
「残酷な世界」の中でこんなにも純粋に美しくデアが育ったのは、ウルシュスたちに愛されて育てられたからなんでしょうね。
だからこそ、デヴィットに襲われた場面での叫びが悲痛すぎてみてられない。
心がとても脆いデアにとって、とてもつらい事が立て続けに起きたことによって、彼女は最後に死んでしまうわけですが、その最後に光を見ることができたのがとても印象的でした。
デアは誰かに守ってもらわないと生きてはいけないほどに弱いけれど、彼女の為にみんなが動き、物語も動いていくのですね。
夢咲ねねちゃんのデアは可愛らしく可愛らしくて。ねねちゃんはこういうお役が本当に似合うと思った。
お歌も以前よりも上手になっているし。



しかしこの物語り、「金持ちの楽園は貧乏人の地獄によって造られる」というユゴーの言葉のインパクトが印象的過ぎて、物語りの主軸がなんなのかを見失いそうになる気がする。。。。いや、私がそう感じただけかもしれないけど。
もうちょっと作り方を「本当に醜い物(=富める者)」に運命を翻弄されたグウィンプレンの物語り色を、デアへの思いとか関係をもう少し多めにして描いてほしかったかもしれない。
原作小説は未読なのですが、wikipediaのあらすじによると物語り時代は原作どおりなのですが、どうも2幕後半が唐突というか。観劇後物語としては若干消化不良なんですよね。。
何度か見たら違ってくるのかもしれませんが

とはいえ何だかんだ言って、結構好きな作品でした。

 

 

ミュージカル「笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-」
脚本:ロバート・ヨハンソン
音楽:フランク・ワイルドホーン
歌詞:ジャック・マーフィー
翻訳・訳詞・演出:上田一豪

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